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第三十二話 高野川の変(其の六)



げろっ、
げろっ、
げろっ、
げろっ・・・・。

●シュキの口から次々人間が出てきた。
 シュキが食べた人間だ。
 すでに死んでいる者もいれば、
 まだ息がある者もいる。

●光輝きながら人間を吐き出し、
 だんだん小さくなってゆくシュキ。

●その様子を映画でも観るように
 見つめる卯乃たち。

●全ての人間を吐き出した後、
 シュキが最後に吐き出したのは、
 美しい一粒の真珠だった。
 真珠は空中に浮かんでいた。
 
 その真珠に手を延ばす卯乃。
 真珠は卯乃の手の中で輝いていた。



 シュキはもう、
 すっかり小さくなってしまい、
 今の大きさは人間の子供ほどだ。
 その表情は穏やかで
 どことなく憂いを帯びていた。



 やがて、
 シュキは半透明になり、
 うっすら輝きながら、
 風にのって漂うように、
 高野川の上流へ、
 北山の方へと、消えていった。

●荒涼とした戦場に風が渡ってゆく、
 北山の山並みの遙か彼方の
 小さな入道雲が
 まだ青い空とのコントラストを
 際だたせている。
 そろそろ夕日が
 あたりを金色に染めはじめた
 長い一日が終わろうとしていた。


(北大路警部)
おーい。
おーい。


●北大路警部が再び
 高野川の川岸を駆け降りて
 手を振り、叫びながら
 卯乃たちのところへ走って来た。
●また鬼がいきなり現れないかと、
 ときおり立ち止まって
 あたりを警戒している。

(北大路警部)
おーーーい!
正義の味方のみなさーん。
大丈夫ですかーー?
どうでしょーーーう。
今度こそーーーー、
勝ったんですかいなーーー?


●小さく我に返る卯乃。

(卯乃)
えっ?
あっ。
勝・・・った。

勝った、勝った。


●卯乃は一瞬、武者震いをして、
 また涙がこみ上げてきた。
 そして振り返り、
 北大路警部に向かって
 大声で叫んだ。

(卯乃)
勝ったーーーー!
わたしたちーーー、
勝ちましたよーーーー!


●それを聞いた北大路警部は、
 満面の笑顔を浮かべて、
 今度は彼が後ろを振り返り、
 土手の上で、不安げに
 こっちの様子をみている、
 負傷した部下の警察官たちに
 大声で叫んだ。

(北大路警部)
勝ーーーーったーーーーー!


●北大路警部の雄叫び、
 そして静寂。
 その静寂をやぶったのは、
 土手の上の警察官たちだった。

(警察官たち)
うおーーーーーー!


●生き残った警察官たちから
 大歓声があがる。
 その勝利の報告はすぐに、
 猿渡の母がいるバスの車内にも伝わり、
 落書き事件で逮捕された
 商店街の店主たちは肩を抱き合って
 喜んだ。

●しかし猿渡の母、猿渡葉子は、
 娘の安否を心配し窓の隙間から、
 花子の姿を探している。

●卯乃の目の前には、
 シュキが吐き出した人々が
 折り重なって倒れていた。

(倒れている人)
う、うーん。

(卯乃)
あ、生きてる。
生きてる人がいる。


●卯乃はとっさに、
 シュキの真珠を自分の胸の谷間にしまい、
 倒れている人に駆け寄った。
●重傷を負った猿渡と鳥居も
 我を忘れて駆け寄ってきた。 

(卯乃)
生きてる。
この人も、この人も。

(猿渡)
望月さん。
この人たち、
さっきの大鬼に食べられた人?

(卯乃)
そうみたい。

(猿渡)
翼。すぐ警察の人らぁの所へ飛んでって
助けを呼んできて。

(鳥居)
わかった。


●自身も傷ついている鳥居。
 今は自分の怪我の痛みを忘れて、
 救援を呼びに飛び立った。

(卯乃)
せ、先生。
上終(かみはて)先生。

●とっさに上終先生の事を思い出した卯乃。
 たくさんのシュキの犠牲者の中から
 先生の姿を探す。

(卯乃)
いない。

いない。

いない、いない、いない、
いない、いない、いない!

あっ!

●その時、まだ44歳なのに、
 気の毒な感じに薄くなった
 見慣れた頭を見つけた。

(卯乃)
先生!
先生だ!
猿渡さんっ、上終先生がいたよっ!

(猿渡)
あっ、その頭。
先生ーー!


●卯乃と猿渡は、
 折り重なった人の下敷きになっている、
 上終先生を引きずり出した。

(卯乃)
先生。
あっ、冷たい。
先生、息してない。
み、脈も・・・ない・・・。
先生ーーー!

(猿渡)
望月さん。
あきらめちゃだめ。
心肺蘇生よ。

(卯乃)
えっ?

(猿渡)
保健体育の時間習ったでしょ。
やんなさいよ。

(卯乃)
わかんない。

(猿渡)
何言ってんのよ。
陰気なあなたを理解してくれる
世界でたった一人の先生よ。
なんだってできるでしょ。

(卯乃)
先生のためだったら、
なんだってやるよーー。
でも、でも、
なんにも思い出せない。
心肺蘇生ってなにぃ?

(猿渡)
はぁーー?

(卯乃)
お願い猿渡さん、
やって、やって。

(猿渡)
嫌よ。
だってファーストキスに
なっちゃうじゃない。

(卯乃)
猿渡さん。
人の命がかかってるのにー。
なんでそんな事言うん?
心配蘇生って時間との勝負なんちゃうの?
先生、みるみる死んだはるやん。
目の前で、ほら。

(猿渡)
もうっ、あんたのバカは、
ほんとに迷惑。
じゃあ見本見せるから、
あとあんたやんのよ。

(卯乃)
うん。わかった。
教えて。

(猿渡)
まず、肩をたたいて、
要救護者の名前を呼ぶ。


●上終先生の傍らに座って、
 先生の肩をたたく猿渡。
 先生の耳元で叫ぶ。

(猿渡)
せんせー。
上終せんせー。
大丈夫ですかー?


(卯乃)
うんうん。


(猿渡)
そしてぇ、
返事が無かったら。
すぐに救命措置をとる。
体を仰向けにして、
顎を上げて気道を確保。
鼻をつまんで、


(卯乃)
それで?


(猿渡)
・・・・・・・・。


(卯乃)
それでそれで?

(猿渡)
あんた、ハンカチとか
持ってないよね。

●卯乃、おもむろに
 スーパーロケット杵を持って。

(卯乃)
でっかいトンカチならあるけど。

(猿渡)
あんたやんなさいよっ!

(卯乃)
先生死んじゃう。
先生死んじゃう。

(猿渡)
はーーーー・・・。

●落ち込む猿渡。

(猿渡)
肺が膨らむのを確認しながらぁ、
口から息が漏れないよう、
しっかり空気を送り込む。

●あきらめて、
 上終先生にマウストゥマウスで
 人工呼吸をする猿渡。

(猿渡)
ふーーーー。
ふーーーー。
ふーーーー。

(卯乃)
猿渡さん、すごーーい。
じゃあわたし、
先生の心臓圧迫するね。
1、2、3、4、5。

(猿渡)
ふーーーー。
ふーーーー。
ふーーーー。

(卯乃)
1、2、3、4、5。

(猿渡)
ふーーーー。
ふーーーー。
ふーーーー。

(卯乃)
1、2、3、4、5。

(猿渡)
ふーーーー。
ふーーーー。
ふーーーー。

(卯乃)
1、2、3、4、5。

(猿渡)
ふーーーー。
ふーーーー。
ふ。

(卯乃)
猿渡さん。
ちょっと止めて。
せんせーー。
せんせーー。
上終知巳さーーん。

(上終先生)
・・・・・。

(卯乃)
はい。
続けて。


(猿渡)
ちょっと。
なんか手際がいいじゃない。
あんた心肺蘇生のやりかた、
ちゃんと知ってんじゃないの?

(卯乃)
えっ?
今はそんな事
言い争ってる時ちゃう。
さあ、猿渡さん。
人工呼吸して。

(猿渡)
ぅぅぅぅぅぅ・・・こんのぉ・・・
モンキーーパーーーンチ!

ドゴォーーーーン!

あぁぁぁぁぁぁーーーーー。

●猿渡にモンキーパンチをくらわされ、
 吹き飛んでゆく卯乃。
 遠くの土手に落下し土煙が上がる。


ぼふっ。


(猿渡)
はあ、はあ、はあ、
望月っ最低っ!
あっ、しまった、
ちょっと、帰ってきなさいよーー。
このあと誰が先生の面倒みんのよーー!
もーーーーーっ!
最低ーーーーーー!






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